べったら市に行った話「君は大根の漬物にいくら払えるか」

旅行・地域ネタ

東京・日本橋にて、例年10月19日・20日に開催される、伝統の「べったら市」というものがある。
江戸時代から続く行事だという。
私は2年前、その催しに初めて出かけた。

「べったら」ってなんだよ。すげえ語感だな。
妖怪の名前かよ。「べとべとさん」かよ。

…などと、不届きな感想を抱きながら訪問したのである。

「べったら」は、大根を麹で甘く漬けた「べったら漬け」のことであり、べったら漬け自体はそのへんのスーパーでもよく売っている。
私はどちらかというと、甘いのより、沢庵やらゆず大根の方が好きだが、しかし漬物はだいたい何でも好む。
なんといっても、江戸時代から続く由緒あるお祭りである。一体どんなものが売られているのか、心ひかれる。

夕方になって、日が落ちてから、ぶらぶらと家族で訪問した。
会場である日本橋・寶田たからだ恵比寿神社の周辺の通りは、一帯がお祭り会場となっており、通り沿いにズラリと並んで掲げられた提灯が、夜の中、あかあかと灯されて、風情ある光景に心が浮き立つ。

無数の提灯が夜を照らし、心浮き立つ独特の雰囲気

通り沿いには露天がぎっしり出ており、べったら漬けの店に限らず、焼き鳥だのベビーカステラだの、お祭り定番の食べ物を売る店なんかが所狭しとひしめいて、実に賑やかだ。
休日ということもあって、通りを埋め尽くすほどのお客さんが、それぞれに買い物をしたり食べ歩いたりしており、ビール片手に盛り上がっている一群も見かける。

べったら漬けに限らず、いろんな食べ物の夜店がたくさん

寶田恵比寿神社の前には、お参りの列ができている。
少し並んでお参りをすませてから、さて何を買おうかなと、露天を覗いて回る。

通りはとにかく人でいっぱい。歩いて回るのも大変

大盛況のお祭りの中、べったら漬けのお店も、競うように出店している。
まったく詳しくないが、おそらく伝統あるべったら漬けの名店のようなところが、いくつかあるのだろう。

「なんとか屋」という店名をのれんに掲げた由緒ありげな漬物屋さんが、賑やかに呼び込みをしながらべったら漬けを売っている。

店先には、大根一本まるまる漬けましたという、実に迫力のある極太棒の形をした大根の漬物が、裸のままで山を作って積み上げられている。
試食用に切ったものをお客に差し出している店もある。

——きっと、なんとか屋と、かんとか屋で、それぞれの味わいとか、代々守り抜いてきた秘伝の麹とか何とか、なんか色々特色があるんだろう。漬物業界に知見のない私には、サッパリわからないが…。

そして、大根がどっさり積まれた店先を見て回っていると、どの店もおしなべて、

…値段が全然書いてない。

一体、一本いくらなのかまったくわからない。

夜店の露天にはありがちの仕様であるが、今どき珍しい不明朗会計だと思った。

まあ、こういう縁日の商品なのだし、まさかスーパーのべったら漬けと同じ相場で買えるわけではないだろうし、けっこういいお値段なんだろうなと思ってはいたが、実際どうなんです、これ。

ぶらぶら見て回りながら、漬物を買っている他のお客さんの様子をちらっと見てみると、大体の相場は見当が付いた。
どうやら量り売りで、100グラム数百円とかの値段のようだ。
ちょうど会計をしていた人は、千数百円払っていた。

…ふむ。そういう感じね。ふむ。

大根の漬物が千円するとかあり得ないじゃん!などと考えていたら、そもそもお祭りなんて楽しめないのである。
縁日なんだから、ここはパーッと気前よく、高い大根をドーンと買うのが、江戸っ子の粋なのであろう、たぶん…
なんなら数本まとめてドーンと買って、近所に配るくらいが、正しいふるまいなのかもしれない。

——大根を買うんじゃないんだよ。お祭りに払うお金なんだよ。神様とのご縁ですから。

私は、ナントカ屋の店先に並んだ。何屋だったかは覚えていない。

どうやら、売られているべったら漬けには、「皮付き」と「皮むき」のタイプがあるらしい。
「何が違うんですか?」と尋ねたら、
「皮付きはべったら市の限定販売です。こっちのほうがポリポリした食感かな」
と、あまり愛想の良くないおばちゃんが教えてくれた。

「じゃあ…せっかくなので…皮付きで」と私は言った。

どっさり積まれている大根の中から、自分でどれか選べるわけではない。
おばちゃんは無造作に一本取って、秤に乗せた。

お値段は100gにつき400円で、大根一本がなんと・・・・・・2100円!!

神様にお供えするつもりでお金を払い、ずっしりした大根を受け取って帰った。

まあ一度くらい、経験あってもいいよね、話のネタにはなるよね。
…ということに尽きる、そういう買い物であった。

さっそく家で、ありがたい縁起物のべったら漬けを食べてみたら、気になるお味は…

きわめてまったく本当に、普通の大根だった。普通においしいけど。

今年(2026年)も、伝統のべったら市は10月19日・20日に開催されるようだ。

上記は2年前の話だが、もしかしたら、昨今の物価高騰を受けて、べったら漬けもますます値上がりしているかもしれない。
まあ、年に1度のお祭りなのである。そんなみみっちいことを言わず、2000円だろうが3000円だろうが、パーっと気前よく買ってしまうのが江戸っ子の(以下略)

私は今日、買い物に行ったスーパーで、「広告の品」と書いてある199円のべったら漬けを見つけて、こんなことを思い出したのだった。
もちろん、私としては、その199円のべったら漬けをさっそく買い物カゴに投入したわけである。
今年のべったら市には、曜日の都合もあって行けないと思うが、このお手頃価格のべったら漬けを、家でおいしくポリポリいただきながら、江戸の昔に思いを馳せることにしよう。

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