ある分析によると、日本の人口の約3割が洪水のリスクがあるエリアに居住しているという。
さらに、土砂災害、地震、津波のリスクのあるエリアも含めると、
災害リスクエリア内に居住する人口は2015年で約8,603万人、全人口の67.7%にのぼるとの推定が示されている。
あなたも私も、何らかの災害リスクエリアに住んでいる可能性が高いというわけだ。
(当然、地震も水害も危険、などというエリアもたくさんあるだろう)
出典:国土交通省「都道府県別の災害リスクエリアに居住する人口について」
2019年、江戸川区に住んでいたときに、台風19号の大雨によって避難したという話(こちら)を書いた。
それもあって、水害についてはヒトゴトとは思えない身である。
この先、我らが日本列島が台風シーズンを迎えることになる季節を前に、
本記事では水害のリスクについてあらためて考えてみた。
この記事は、素人の一般人が調べて分かる範囲のことを書いているだけのものなので、
分かり切った話だと感じる方にはあまりお役に立てない内容であり、大変申し訳ない限りである。
なお、自身の生命・身体に関わる情報については必ずご自身でご確認ください(本サイトにて責任を負いません)。
水害に脆弱な東京東部
首都圏にお住まいの方はよくご存じだと思うが、
江戸川区を含め東京の東側には、海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる低地が広がっている。
もともと、徳川家康が江戸の地にやってきたとき、江戸は未開の湿地帯で、
今の日比谷の地まで入り江(海)が入り込んでいたという。
それを埋め立てて、家康は江戸の町づくりを始めたわけだ。
その後、数百年の時を経て、東京は埋立により土地の面積を増やしてきたが、
そうして造成された土地には、やはり古くから高台だった土地などと比べて、浸水や液状化といったリスクが高い特性がある。
東京東部は、もともとこういう来歴の土地だったところへ、地下水の過剰なくみ上げによって大規模な地盤沈下が発生し、現在のような海抜ゼロメートル地帯が広がることになったのである。
下の図は、東京東部を中心に、東京近辺の標高を色分けしてみたものだ。
※似たような標高図は色々なところで見ると思うが、ここに載せているのは、国土地理院の地図にて、「自分で作る色別標高図」の機能を利用し、筆者が作成したもの。
この中でいちばん濃い青になっている部分は、標高が0メートルを下回っている土地である。
やや広域で見たものと、拡大版と両方載せてみる。


<注記>
・海面の高さは変動するものであり、「海抜ゼロメートル地帯」とは、一般的には「周辺の海の満潮時の海水面」より低い土地を指し示していることが多いのだが、ここでは分かりやすく単純化するために、標高0メートルで区切って色分けした。
・日本における標高は、東京湾の「平均海面」を0mと設定し、測量されている。そのため、東京湾の満潮時の海面は、標高0mより高い。
上記の地図を見れば、荒川沿いに標高が0m以下の地域が広く存在していることが分かる。
私が江戸川区に住んでいた時、普段使っていた地下鉄の駅の出入り口には、「この出入口は海抜-0.9m」などと記載されたプレートが貼られており、
通りかかるたびに「ここは水に浸かる土地です」と言われているような気がしていた。
これらの土地では河川の水位よりも土地が低いから、河川の堤防が決壊したり、あるいは川の水が堤防を越えて流れ出てきたりした場合には、一帯が水に浸かってしまう。
そして、海面より標高が低いということは、いったん水に浸かった場合、その水がなかなか引かないということを意味する。
土地より水面の方が高いのだから、自然には排水しないということだ。
ためしに、以下の図は、国土地理院の地図の作図機能により、墨田区役所と江戸川区役所の間の断面図をとってみたものである。

標高0ⅿを下回る部分が多く、川より低い土地が広がる
図の右側に荒川があり、一目瞭然、荒川より低い位置に墨田区や江戸川区の土地が存在していることが分かる。
川の両端で突き出るように高くなっているのは堤防である。
この堤防が壊れて0mより低い場所に水がたまれば、容易に外に出ていかないことは想像できる。
これらの地域では、仮に現地において雨が大量に降ったわけではなくても、
上流を含めて荒川の流域のどこかで想定を超える大雨が降れば、河川水位が上昇して堤防が決壊し、結果として浸水するおそれがある。
決壊する地点によって浸水の範囲も変わってくる(もっと上流が浸水するかもしれない)。
東京東部の江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)といわれるエリアについて、
水害のハザードマップを見てみると、全域がほとんど真っ赤っかになっている。
区内に安全な土地(浸水しない土地)がほとんどないのである。
だから、避難しようにも、区内には避難に適した場所がないのだ。

江戸川区に住んでいたとき、各住戸に配られたハザードマップには、表紙のど真ん中にいきなり
「ここにいてはダメです」
という、身も蓋もないことが書いてあり、区外への避難が必要である旨が強調されている。

そのため、これらの区では、大規模水害の際に区の外に避難する「広域避難」を呼びかけている。
「江東5区⼤規模⽔害広域避難計画」なる計画も策定されているが、
実際に住民一人一人が具体的にどこへ避難すればいいのかが示されているわけではない。
一住民の身としては、正直、「いや、そんなこと言われても…」「どうせえっちゅーねん」という気持ちがすることも確かである。
もちろん浸水するのは江東5区だけではない。
最初の標高図で見たように、荒川沿いには埼玉県も含めて広範囲に低地がある。これらの土地も水害リスクを抱えているのは言うまでもない。

低地だけの問題ではない
このように、首都圏においては、河川の流域を中心に浸水想定区域が広範囲に存在しており、
その範囲内にかなりの人口が居住している状況である。
ただし、「低地じゃない」「河川の近くではない」ような場所に住んでいる場合に、
水害のことを何も気にせずに暮らせるのかというと、そうでもない。
今年も各地でのゲリラ豪雨がしょっちゅうニュースになるが、
たとえば、昨年、2025年の9月11日に、東京では猛烈なゲリラ豪雨が降り、各地で浸水被害が起きた(記事)。
品川区にある「戸越銀座商店街」(1.3㎞にわたり続いており東京最長と言われる)が川のようになったり、目黒区・品川区を流れる「立会川」が氾濫して水が溢れたりしている映像がニュースでも流れていた。
このとき、都知事の会見によれば、世田谷区では観測史上1位の時間雨量を記録し、大田区、目黒区、品川区など多くの区市の住宅で、床上・床下浸水が発生したとのことである。
このゲリラ豪雨では、23区の南西部で被害が発生していたわけだ。
荒川・江戸川のような大河川とは別に、東京都区部には、上記の谷沢川、立会川のほか、目黒川や神田川のような中小河川がある。
街なかを流れるこれらの川は、川幅が狭く、流路がコンクリート舗装されており、いわゆる河川敷というものがない。
川(水の流れている部分)の両サイドにすぐ市街地がある。
だからゲリラ豪雨などで短時間に流量が増大すると、受け止められるバッファがないから、瞬時に水位が上がって、ワーッと溢れてしまったりする。
そういう水害リスクもあるのだ。
そして、近所に川がない場所についても、地形によっては水が溜まりやすいことがある。
上記の豪雨の際、浸水した「戸越銀座商店街」は、川からも離れているし、標高も20m弱あって、絶対値として低いわけではないが、
谷のような地形になっており、水が溜まりやすい特性がある。
ためしに戸越銀座商店街の周辺の地形を見てみた。
先ほどと同じ地理院地図で、「自分で作る色別標高図」を使い、標高の区分けを細かく5m刻みにして、色分けを作ってみた。

戸越銀座商店街が位置する通りが、水色や青色になっており、主に緑色や黄色である周辺の土地より相対的に低くなっていることが判別できる。
(※海抜ゼロメートル地帯のところで作った色分け図とは色の区切りの水準が違うので注意)
ハザードマップを確認してみても、この谷間に当たるところが浸水想定区域になっているのが確認できた。

都市部では、地面がほとんどコンクリート舗装されており、森や田畑と比べて、降った雨が地中に浸透しにくい。
そのため、ゲリラ豪雨のように短時間に大量の雨が降ると、雨水が地面にしみ込みきれず、地表面を伝って相対的に低い場所に流れ込んで、浸水するに至ったのではないか、という推測が成り立つ。いわゆる内水氾濫だ。
このように、「低地以外」「河川近隣以外」にも、細かく見ていくと浸水リスクがあることが分かる。
まとめるとこうだ。
荒川河口部の海抜ゼロメートル地帯は、河川の増水により堤防が決壊したときに、大規模・長期間の浸水リスクを抱える。下流に直接雨が降らなくても、上流に大量の降雨があれば水位が上昇して決壊する可能性が生じる。
中小規模の都市河川の近所では、短期間に大雨が降れば(局所的な豪雨であっても)急激な河川の増水が起こりやすく、急に氾濫するリスクがある。
特に雨水が浸透しにくい都市部では、低地でなくても相対的に周囲より低い場所(窪地や谷底になっている地形)には水が溜まりやすい。
自分はどんな土地に住んでいるのか
水害リスクと一口に言っても起こりうる被害の様態はそれぞれ異なっているから、
自分がどんな土地に住んでいるのか調べておくことは、身を守るために有益であると思う。
例えば、国土地理院の地図では、土地の成り立ちを調べることができるメニューもあり、全国が網羅されているわけではないが、よく勉強になる内容だ。
例として東京の一部を見てみた。
下記は東京駅近辺の地形分類図(自然地形)である。

皇居を含む千代田区のあたりは「台地・段丘」。高い土地である。さすが皇居はいい場所にある。
東京駅のあたりは「氾濫平野・海岸平野」。河口付近に土砂が堆積したり、海岸が干上がってできた低地。
銀座駅あたりの黄色は「砂州・砂丘」。昔の海岸・湖岸・河岸沿の砂礫質な土地。
そして中央区含め右側に広がる灰色のエリアは「旧水部」であり、過去に海や川だったところだ。
同じ地図で地形分類図(人工地形)も確認してみた。

赤色に表示されているのが「盛土地・埋立地」である。
先ほどの自然地形図で「旧水部」とされた土地は埋立地になっていることが分かる。
同じ東京駅近郊でも、土地の成り立ちがそれぞれ異なっていることが確認できた。
こういうことは、よく知っている人からすれば「何を今さら」「当たり前だろ」と思われるようなことかもしれない。
しかし、首都圏には全国から多くの人が集まってくる。
転勤や進学で、縁もゆかりもない、よく知りもしない土地に転居してくることだってあるだろう。
昔から住んでいる人はともかく、一体そこがどんな土地でどんなリスクがあるのか、よく調べるタイミングがないまま住んでいる人も中にはいるのではないか、と思う。
私自身、頻繁に転居しているほうだから、住んでいる土地に対して知識も何もない。
こうして公開情報からいろいろなことを調べるのは、身を守るのに役に立つと思っている。
それで自分が調べるついでに、記事でご紹介した次第である。
今回は首都圏の水害リスクのことを書いてきたが、次回は首都圏以外についても調べてみたいと思う。


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