「お役所仕事」という言葉がある。
広辞苑には、
「形式主義で非能率的な官庁の仕事ぶりを皮肉っていう語」
との説明がある。
形にばかりこだわり、杓子定規。中身がなく、しかも無駄が多い。そして、やる気もなく、投げやり。
そんなイメージなのではないだろうか。
こういう言葉がある以上、人々の間には、役所(公務員)の仕事ぶりについてのネガティブなイメージがあるのは間違いないのだろう。
一方で、公務とは本来、社会的・公益的な必要性から行われているものだから、我々の社会になくてはならないものでもあるはずだ。
本記事では、先般、区役所の方にお世話になった話を紹介する。
ありがちな失敗をやらかす
ある休日のこと、私は長男(ひーくん)・次男(ふーくん)を連れて近所の公園で遊んでいた。
ほかに誰もいない公園で、ひーくんが竹とんぼに熱中していたところ、飛ばした拍子に思いがけず高く舞い上がってしまった竹とんぼは、公園のパーゴラの上に乗ってしまったのであった。
※パーゴラというのは、日除け棚のことで、藤棚みたいな形の設備だが、植物がない代わりに、屋根代わりのよしずが載せてあって、日陰を作っている。
「あーー・・・・・・」
と言った。私もひーくんも。
パーゴラの上は、手の届かない高さだ。上によじ登る手立てもない。
下から虫とり網でつついたりしてみたものの、とてもじゃないが、取れる見込みもない。
脚立でもなければどうしようもない。諦めるしかないな・・・と思った。
ただ、超ご機嫌で楽しく遊んでいたところだし、ちょっと思い出のある品でもあったので、ひーくんは残念そうだった。
私は少々の気がかりを残したままその日を終えた。
ダメ元で突撃した結果
翌日の月曜日、私はダメ元で、居住地の区役所に電話してみた。
遊んでいた公園は、区の管理施設である。
とはいえ、まさか、うちの竹とんぼ取ってください、なんて頼めるはずもないだろうが、
例えばもし、定期的にパーゴラの清掃などをしているのなら、そのタイミングで何とか取り戻せたりしないものだろうか?
そんなことを考え、公園管理担当の電話番号を調べて、連絡した。

あのー、公園管理のことはこちらでよいでしょうか・・・
ちょっと切り出しにくかった。何しろ、我ながら、実に取るに足らない用件に思えるからである。

えーと、○○公園で昨日、竹とんぼで遊んでいたら、パーゴラの上に乗ってしまって・・・。
何かメンテナンスのタイミングとかないですかね?
あ、その、まあ、諦めるしかないのかなとは思うんですが・・・汗
職員の方は、丁寧な口調で、「いえ、そんなことはないと思いますよ」と言いながら、状況をもう少し聞き取ってくれた。
どういう玩具か。どこに乗ってしまったのか。
職員の方が言うには、公園を定期的に巡回しているので、その際に取得できるのではないか、ということだった。
それで、担当から後ほど連絡しますといってもらった。私は氏名と連絡先を伝えた。

・・・あれ?
役所って、こんなことに取り合ってくれるんだな・・・
意外な思いがした。
子どもの竹とんぼがどうとか、そんな話は門前払いされるだろうなという感覚だったからだ。
「それはどうしようもないですね」って言われるのを想像していた。
役所は忙しい。対応しなければならないことが山積みのはずだ。
上記の電話を切って数分もしないうちに、区役所の担当者という人から電話がかかってきた。
実にテキパキした感じである。
「区役所から委託している公園の巡回班で対応しますので、その業者に連絡先を伝えてもいいですか?」
「あ、もちろんです…」
「受け渡しはどうしますか?区役所に取りに来るというのも、さすがに面倒だと思いますし・・・ご近所にお住まいなら、巡回中に受け渡せると思いますが」
公園巡回の業者さんが、取ってくれるという話になっている。
なんだか、竹とんぼ一つのことで、何人もの人出を駆り出しており、大変申し訳ない。
私の想像では、もし何か対応してくれるとしても、次回のメンテナンスの時に・・・みたいな話がせいぜいだろうと思っていたが、担当者の話によれば、明日にでも取ってくれるという雰囲気である。
「え、公園の巡回って毎日されてるんですか?」と、思わず聞いてしまった。
「まあそうですね、毎日全部を回るというわけじゃないですけど・・・」
結果、公園巡回の業者さん(区からの委託先)に連絡先を伝えるので、業者さんから連絡をもらって、受け渡しなどを相談してほしい、ということだった。

なんか、想定外に、メッチャ真面目に取り合ってくれたな…
と思うと同時に、こんな些末なことで連絡して、人手を割いてもらうことになったのが申し訳ない気持ちにもなった。
まさかの帰還
翌日、朝イチで、業者の方から電話がかかってきた。
「どのへんに引っかかりましたかね?」
「パーゴラの上なんですけど、下からは見えなくて、正確な位置は分かりません・・・すみません…」
そんな会話をしたあと、数分後に、「とれました」とまた電話をもらった。
実に丁寧で親切な感じだった。

ホントにとってくれたのか・・・!!
なんか、すみません、竹とんぼとか・・・!!!
受け渡しをどうするか相談した。こちらの都合に合わせてくれる雰囲気である。
その翌日、たまたま夫の在宅勤務予定だったので、その間に連絡をもらって、公園に引き取りに行くという話になった。
そうして、竹とんぼ消失からわずか3日で、ひーくんの竹とんぼは手元に戻ってきた。
区役所の公園管理担当の方、そしてその業務委託先業者の方、複数の人のご尽力により、取るに足らない子どもの玩具が、持ち主のもとに帰還を果たしたのであった。
とてもありがたく思った。と同時に、何度も言うが非常に申し訳ない気持ちもあった。
先にも書いた通り、区役所には、たくさんの仕事がある(と思う)。
住民にもっとも身近な行政を担っているのだから、生活の全般にわたって区役所の担当業務は幅広く存在している。その中には、竹とんぼがどうとかいうことよりもっと深刻で、重大で、急を要する事柄もたくさんあるだろうと思う。
そのような中、くだらないことで職員の方の手を煩わせてすみません。
それと同時に、あらためて、我々の日々の生活が、こういう職員の方々によって支えられているということも実感した。
いつもありがとうございます
小さな子どもがいる身としては(もちろんそうでなくても)、公園は死活的に重要な施設である。
公園がゴミだらけになったりせず、木がちゃんと剪定され、気持ちよく使えるようになっているのも、日々の管理を担ってくれている方たちのおかげである。
おかげで、安心して、子どもが走り回れます。
本記事は、単に、「こんな出来事あったんだよ」と報告したいだけの動機で書いたものだ。
別に、「区の公務がすばらしい!!」と称揚する意図ではないし、
「公務員叩きはやめるべきだ」などという議論に使おうと思っているわけでもない。
私たちの社会は、たくさんの人の、毎日の地道な仕事によって成り立っているのであって、
我々の暮らしの基盤の維持・管理は、目に見えないところで誰かが担っている。
役所の仕事は、とりわけ、そういう性質のものが多い。
何もしなくても当たり前に維持されている(ように見える)ものを、我々はつい忘れがちであるが、ちゃんと「ありがとう」と思える人間でありたいと思ったところだ。
そして、次の休日。
ひーくんはさっそくまた別の公園で、竹とんぼを飛ばしていた。
何しろ、回転させるための紐が付いた竹とんぼで、実によく飛ぶのである。
今度は木に引っかかりました。・・・なんてことにならないように、くれぐれも位置取りに気をつけねば・・・と緊張する筆者であった。



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