近年、めざましく品質が向上したといわれ、国際的な評価も高まっている日本ワイン。
日本ワインの産地と言えば、やはり圧倒的に山梨県だろう。
山梨県内には80あまりのワイナリーがあるという。
そこで、山梨県に旅行するとなれば、やはり単にワインを買うだけではなく、ワイナリー見学をしてワインのことを学んだり、ワインの生産現場を身近に感じたりしたいと思うところ。
一方で、ワイナリーはブドウ畑に併設されていることも多いわけで、なかなか公共交通機関では訪れにくい場所も多い。かといって、車を運転していったのでは、ワインを飲めない。
その点、甲府市の老舗ワイナリー「サドヤ」は、なんと甲府駅から徒歩5分という圧倒的なアクセスのよさが魅力。
甲府に観光に行ったついでに、空き時間でサクっと立ち寄ることもできる場所にある。
先日、山梨旅行の際に、サドヤワイナリーの見学に訪れたので紹介したい。
サドヤは、1917年創業の老舗ワイナリーである。
HPの記載によれば、1936年に自社農場を開墾し、フランスから苗木を取り寄せて、そこから欧州種による醸造を始めたそうだ。
1940年には宮内庁に納入を開始したという、大変由緒あるワイナリーであり、日本におけるワイン作りの先駆者の一人と言ってよいだろう。
甲府駅を北側に出ると、わずか5分ほどの道のりでワイナリーに到着する。迷うこともなく分かりやすい場所である。


入口を入ろうとすると、案内のスタッフが立っていて、「見学ツアーご参加の方ですか?」と声をかけられる。
見学者や来店者を相手にわざわざ案内の人員を配置しているのか!?とびっくりしたが、理由は後で分かった。
地下セラーの見学ツアーは、一人1,000円の参加費が必要で、予約制になっているので注意しよう。
あらかじめ、HPから、日時を指定して予約しておく必要がある。
仮に見学ツアーに参加しなくても、ワインの購入や試飲ができる「ワインブティック」には自由に立ち寄れるので、時間の都合が合わない方はそちらに行かれるとよいと思う。
受付を済ませると、ワインブティック奥のテイスティングスペースで開始時間まで待つよう案内される。
椅子とテーブルがあり、ゆっくりくつろぐことができる。

ワインブティックで購入した試飲用ワインもこのスペースで飲むことができ、ツアー参加者以外にも多くの人がグラス片手にワインを楽しんでいる。
開始時間になると担当スタッフが来て、構内を案内してくれる。
まず、敷地内ですぐ目につくのは立派なチャペル。チャペルの正面にはレストラン。
ここは、ワイナリーというだけでなく、結婚式場としても使われているのだ。道理で、高級感あるオシャレな外観である。そして、入り口に案内人がいるのもそういうわけだったのだ。

スタッフによると、年間300回以上も結婚式が行われており、「山梨県内でも一番なんですよ」という。さすが山梨県、ワイナリーでウェディングとは個性的。
続いて、さっそく地下セラーへ案内される。
入り口の階段を下っていくと、ひんやりと肌寒い地下の空間に到着。


地下倉庫は、暗がりの中、どういうわけか怪しげな赤いライトがところどころ点灯しており、独特の雰囲気である。

まずはボードの前で赤ワイン・白ワインの作り方をざっと説明してもらったうえで、広い見学スペースに案内される。
壁面がタイル張りになっている大きな空間だが、解説を聞くと、昔はここがワイン貯蔵用の地下タンクだったのだという。ものすごく大きい。


見学スペースの中には、昔のワイン作りのための機械などが展示されている。
このような地下タンクが地下スペースに50くらい並んでおり、それぞれ大きさが違うので、その年の収穫量に合わせて使われていたらしい。


面白かったのは、樽が展示してあるところ。解説スタッフが、「実は、樽は高いんですよ」という。1つ17万円くらいするのを輸入しています、という説明があり、思った以上に高価なんだなあと驚く。

続いて、そんな高価な樽を使ってワインを貯蔵している広い保管庫へ。
大量の樽が整然と並べられている様子は圧巻である。


参加しているお客さんから、「一つの樽で何本分くらいになるんですか?」と質問が出る。
解説スタッフによると、ここで使われている樽は、大体225リットルくらい入る容量があるそうだ。
したがって、「樽ひとつあれば300本くらいになります」という。
「なので、毎日1本ずつ飲んで、週に1回お休みするとしたら、ちょうど1年間持つ量ですね!」
解説スタッフは実ににこやかにそのような説明をしてくれた。
なるほど、つまり樽ごと買えばぴったりワイン1年分になるわけだな。
ふむふむ、そうか、その手があったか!!ちょうどぴったりだな!!
……ってそんなわけあるかい。
※樽の販売はされていません、当然。
私は、ワインは好きだが、自分の肝臓の処理能力だと、毎日1本飲んでいたら生活に支障が出て、仕事にも行けなくなってしまう気がする。
さすが、ワインを生業とする人たちの感覚は、ちょっと次元が違っている。
※一般的に、健康上、ワイン1日1本は推奨されないと考えられます、当然。
※スタッフもそのような飲酒を広く推奨しているのではないと思います、当然。
それでも一瞬、気に入ったワインを樽1個丸ごと買い付けて、毎日その樽からワインを注いで好きなだけ飲むという夢のような妄想を思い浮かべてしまったのであった。

最後に、うんと古いワインが保管されている部屋を案内してもらった。
部屋には鉄格子があり、まるで牢屋のような外観なのだが、その中に、50年以上も前のワインが年代別に眠っている。
品質を保証できないことから、販売は一切していないとのことだが、文化財的な意味で貯蔵してあるのだという。

いちばん古いという1955年のワインを見ると、白ワインなのに中身が茶色くなっている。50年ほど寝かせておくと、この色に変化しますよと教えてくれた。

さて、地下セラー見学を終えて戻ってくると、テイスティングスペースには試飲用ワインが用意されていた。
見学ツアーの参加費1,000円にはこの試飲1杯が含まれている。(追加で試飲する場合は別途料金)
今回、試飲用として出されたのは、ロゼワインだった。
ちょうど桜が満開の時期ということで、見た目に華やかなロゼワインが選ばれたのではないかと思う。

ロゼワインと言えば、フルーティーな香りと、フレッシュな飲みやすさ。
私の貧弱な行動パターンでは、「赤でも白でもないな、ビミョー…」みたいなときに万能選手としてお出ましいただくみたいなイメージだ。エスニックなんかには重宝するだろう。
さっそくいただいてみると、果実感ある香りとは裏腹に、味わいは非常にドライ。ロゼワインには甘めのものもあるが、そんなイメージに反して、完全に辛口である。
解説スタッフが、相性のいい料理としては、色の同じようなものを合わせるといいですよ、と教えてくれる。例えばサーモンのカルパッチョなど。
しかし、完全に辛口の味わいなので、正直なところ、「これなら、難しく考えずどんな食事とも合うんじゃない?」と思ったりした。食事と一緒に飲むのにとても適している。
今の時期、これをこのままお買い上げして、舞鶴城(甲府城)公園に持って行って、満開の桜の下で開けちゃいたいよねという誘惑にかられる。というか、そういう流れ?
見学ツアー自体は、これにて終了。
さらに、冒頭に記載した「ワインブティック」では、サドヤのワインがズラっと陳列・販売されており、その中から気になるものを選んでカウンターで試飲を申し込むことができる(グラス1杯300円程度から)。
私は赤ワイン派なので、やはり赤ワインが欲しいと思い、追加で「オルロージュ」の赤を試飲した。
山梨の赤ワインといえば「マスカット・ベーリーA」だが、このワインはベーリーAとカベルネ・ソーヴィニヨンをブレンドしている珍しい作り。ベーリーAらしい、甘いイチゴのような香りがするのに、飲んでみると後味になんだか樽風味みたいな熟成感も感じられる。

おいしく飲み終わり、うっかりすると「じゃあ次は別のをもう1杯」などと言いながら、次の旅程も忘れて滞留してしまいそうになる。何しろ実に居心地のよいテイスティングスペースがあるのだ。
沼にハマらないよう、くれぐれも気をつけよう!
ところで、サドヤのワインはオンラインショップでも購入することができる。
ちょっと覗いてみると、「店長オススメ1週間分セット」という商品が目につく。
「1週間分」と称しているそのセットの構成内容は、
モンシェルヴァン 白 1,800ml × 1
モンシェルヴァン 赤 1,800ml × 1
オルロージュ ロゼ 750ml×1
オルロージュ 白 750ml×1
オルロージュ 赤 750ml×1
…である。
たぶん、1,800mlは2日に分けて飲む想定で、7日分という発想なのだろう。
どうやら、1日あたり750ml~900mlを消費するくらいが、サドヤの思い浮かべる標準的なワイン生活であるようだ。ずいぶんと飲兵衛な集団を想定してるな!!
※1人分とは言ってなく、みんなでワイワイ飲む想定の可能性もあります。
…というわけで、楽しい見学ツアーにより、ワイン造りの知識がちょびっと増えた気がするが、
まあ何よりも、毎日飲んで年間ワイン1樽分空けるという発想の鮮烈さが印象的である。
昨今、お酒を飲むことの健康へのリスクが強く意識されるようになり、世界的なトレンドとして飲酒習慣は減退ぎみであるように思われる。
私自身、年齢や体調の制約によって、いつまでお酒を飲めるかはわからない(当サイトも当然、大量飲酒を推奨するものではない)。
しかし、おいしいワイン造りへの営みは、おいしく飲む人があってこそ。
これからもおいしいワインを作る人とおいしく(適度に)ワインを飲む人が末永く続きますように。


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