企業が自社の製品やサービスを紹介するために運営しているミュージアムには面白いものが多い。
横浜にある日清の「カップヌードルミュージアム」なんて、いつも大人気だ。子どもとのお出かけ先にも最適である。
先日、同じ横浜にある「三菱みなとみらい技術館」を訪問したので紹介したい。
みなとみらいと言えば、コスモワールドや赤レンガ倉庫など横浜の主要な観光スポットが集中しているエリアだが、この「三菱みなとみらい技術館」は、その中にあって、知名度はそれほど高くないように思う。
私自身、先日見つけるまで、存在を知らなかったのだ。
三菱重工が運営する企業ミュージアムである。
ミュージアム概要
私が訪問したのは2月の土曜日。みなとみらいは賑わっていたが、当科学館は混雑もなくゆっくり見られた。実験やワークショップなどの開催がない時間帯だったからかもしれない。
平日は休館日が多いので、来館前に必ず開館情報をチェックしよう。

ミュージアムは2階構成で、おおむね「海」「空・宇宙」「陸」に分かれている。
それぞれのフィールドで三菱重工が開発や製造を担っている技術や製品を見ることができる。
展示内容としては、製品の模型や実物が中心であり、特に、重工業という業種を反映して、大型の模型も多い。
公式サイトの説明を借りると、
三菱みなとみらい技術館は、明日を担う青少年たちが「科学技術」に触れ、夢を膨らませることのできる場になることを願い、三菱重工業株式会社が1994年6月に設立したものです。
だそうである。
しかし、見た感想を先に言っておくと、「科学」や「技術」を丁寧に解説しているという印象は薄く、
むしろ、現実世界における工学的な実装に重きを置いている展示のように思えた。
「サイエンス」「テクノロジー」というより「エンジニアリング」の領域といったらよいか。
そのため、展示自体は、科学の理論を説明するような内容ではない。「実物こうなっていて、こんなふうに使われてるんですよ」という展示である。
ただし、館内では、理科の実験の実演や、工作などのイベントが実施されているので、時間の合う方はそちらにも参加されるとよいと思う。
以上が、ミュージアムに関する表面的・概略的な説明である。
…で、ここからは、実際に展示を見た感想をお届けする。
純真な子どもたちが見れば、「ロケット、すごーい」という感想になるのだと思うが、
悲しいかな、浮世の垢にまみれた大人が見ると、「科学技術に触れて夢を膨らませる」という境地にはなかなか到達できず、極めて不純な感想になっていることを先にお断りする。
(なお、私自身は三菱グループとはまったく何の関係もありません)
展示内容:入口
入ってすぐのウェルカムゾーンにあたる「MHIフューチャーゲート」では、三菱重工の創業からの歩みがざっくり年表形式で紹介されている。
岩崎弥太郎の肖像画が年表の最初に載っていて、三菱グループが海運から創業し、重工としては造船事業が出発点になっていることが分かる。

三菱の製品である豪華客船(ダイヤモンドプリンセス、飛鳥Ⅱ)の模型や、海外に輸出されているLRTや無人運転システムの車両の模型などが展示されている。
輝かしい三菱グループの歴史と歩みが一目でわかるぞ!
展示内容:「海」ゾーン
「海」のゾーンは、深海探査や地球の内部調査に関する展示だ。
具体的には、深海探査機「しんかい6500」や、地球深部探査船「ちきゅう」を扱っている。
「しんかい6500」の実物大の模型が中心にドーンと展示されており、探査機を輪切りにしたような形で内部の様子も詳しく再現されている。
潜水艇の中ってこんな狭い空間なんだな・・・というのが実感できる。

つい最近、海底のレアアース泥を南鳥島沖まで試掘に行ったことで話題になっていた地球深部探査船「ちきゅう」の模型もあり、こちらは縮小模型だが、船内の様子などが詳しく分かる。
子どもたちが熱心に遊んでいたのは、「シーメカニマル」を作るコーナー。自分でディスプレイを操作して、生き物のような形の海中メカ(シーメカニマル)をデザインし、完成したメカを大きなスクリーンに映し出せるというもの。

深海は人類にとって未知の領域が多い。
広い海洋を抱える我が国としては、海に眠る資源やエネルギーをいかに活用していくかということが、国家戦略として大変重要であり、
三菱がまさに我が国の行く末を背負ったプロジェクトを支えていることがよく分かるぞ!
展示内容:「空・宇宙」ゾーン
「海」に対して、「空・宇宙」は、なんか雑にまとめられてないだろうか?と思ったのだが、
実際のところ、展示内容としては「空」つまり航空機に関するものはほとんどない。
申し訳程度に、風洞試験に実際使われたという航空機模型が展示してあるだけである。

先の大戦中にはあの「零戦」を開発し、現在も我が国の防衛産業の中心を担う三菱であるが、
近年、三菱に関して「航空機」と言えば、
・・・MRJ(※)である。
(※)「三菱リージョナルジェット」。途中で「三菱スペースジェット」へ名称変更されたらしいが、みんな「MRJ」で記憶していると思う。
日本初の国産ジェット旅客機の開発という官民挙げた国家プロジェクトとして、2008年に「三菱航空機」が設立されてスタートし、経産省からも500億円が支援されたというが、
型式証明取得の難航等により6度の納入延期を繰り返し、2023年、開発中止が発表された。
三菱としても1兆円という巨額の開発費を投じながら失敗に終わったプロジェクトである(参考記事)。
もしかしたら、開発作業が進捗していた頃には、このミュージアムでもMRJの紹介がされていたのかもしれない。
しかし、現在、ここでMRJに関する言及は一切なく、完全に存在が葬られている印象である。
三菱としてはもはや黒歴史として扱われているのだろうか。
まあ、MRJの失敗については、技術そのものに問題があったというわけでもなさそうだし(※)、気持ちは分かるのだが、科学技術というのは失敗を繰り返しながら原因を究明し、検証し、発展してきたもののはずである。
ここはぜひ、技術立国・日本を背負う巨大企業として、失敗を隠さず直視するという度量の大きさを見せてほしいところである。
(※)報道等で知る限りだが、飛行機の製造技術に難があったというより、安全性の証明にかかるノウハウが欠落していたことが問題のようだ。
その点、「宇宙」については、前向きで自信に溢れた展示内容になっている。
フロアの中心に巨大なロケットエンジンの実物が2基並んで展示されているのが大迫力だ。
ディズプレイを操作すると、エンジンの燃焼試験の様子が見られる。
ロケットの模型も並べられており、ロケットの燃料の種類、ロケットが宇宙に打ち上げられる仕組みなどが解説されている。



「フロンティアシアター」という映像コーナーでは、未来の宇宙開発がこうなっているかもしれない・・・というSF的なイメージが迫力ある立体映像で流れてくる。
国際宇宙ステーションに日本が設置している実験棟「きぼう」の内部を再現したコーナーもある。
宇宙への夢をかき立てる楽しい展示が多く、純粋に面白かった。

ところで、ロケットと言えば・・・
記憶に新しいのは、昨年12月にH3ロケット8号機が打ち上げに失敗し、
軌道投入するはずだった測位衛星「みちびき」5号機がおじゃんになったというニュースである。
H3ロケットも、三菱重工がJAXAとともに開発したロケットである。
打ち上げ失敗の要因は今も分析中と聞くが、おそらく数百億単位の予算を費やしているだろう「みちびき」5号機が喪失し、その後に続くはずだった「みちびき」7号機の打ち上げも延期されているのだから、日本の宇宙政策に対する打撃は極めて大きいと思われる。
・・・なんていう失敗案件が頭に浮かぶ状態で見ると、なんだかブラックなジョークを見ているような気分になってくるぞ!
なお、空に消えちゃった衛星「みちびき」を製造したのは三菱電機のようである。
もう、グループ総出で国策受注。
ミュージアムは2階のフロアに続いており、2階には、巨大スクリーンのシアター「バーチャルツアーステーション」と、「陸」の展示ゾーンがある。
展示内容:シアター
「バーチャルツアーステーション」は、大画面で臨場感のある映像を視聴できる。
私が訪問した日には、「ロケットの一生」という映像コンテンツが上映されていた(撮影は禁止)。
ロケットの製造から打ち上げまでのプロセスを描いた映像である。
高度な精度を要求されるロケットの部品製作のために、技術者が手作業で溶接などの工程をこなす場面、塵ひとつ入らないようクリーンルームで作業が行われている様子など、ロケット部品ができあがるまでの技術者たちの作業が紹介されている。
できあがったロケット部品は遠い海を経て種子島に運ばれ、細心の注意を払いながら打ち上げ場所に運搬され、そこで組み立てられる。
打ち上げられたロケットは段階的にパーツを切り離しながら加速し、予定軌道に衛星を投入する。
その後、ロケット本体はわずか30分で大気圏に突入して燃え尽きてしまい、1年半を費やして建造されたロケットは短い一生を終える、というストーリーで、映像自体はとても面白い。
多大な労力と長い年月をかけて精緻に設計・製造され、役目を終えれば地球には帰らず、そのまま大気圏の塵と消えてしまうロケット・・・。
そのはかない運命も、「衛星を無事、宇宙に送り届ける」という使命を果たせたのであれば、ちゃんと報われると言えるわけで、それを作った技術者も感無量という気持ちだろう。
しかし、打ち上げが失敗し、長い年月が水泡に帰し、さらには運ぶはずだった衛星まで消失させたとなると・・・
なんだかタイミング悪すぎて皮肉な内容に思えてきたりするぞ!
展示内容:「陸」ゾーン
海、空、宇宙ときて「陸」だから、てっきり電車の車両とかを扱っていると思ったら、このセクションはエネルギーに関するものだった。
火力、風力、原子力、地熱といった各発電モードの仕組みを模型等で解説しているものである。
エネルギーについては、原発をどうすべきか、再生可能エネルギーの比率をどう高めていくかなど、政策論争的に扱われる場面が多いが、
技術的にはこうなっています、というのを体系的に見られる機会は多くないと思う。
そういう意味で個人的にはとても面白く、有益な展示だった。
原発のいい・悪いは置いて、原子炉の内部構造ってどうなってるの?というのを純粋に知りたいではないか?

再々可能エネルギーとして期待を寄せられている風力発電に関する技術も扱われており、
実際に風車が受けている風を体感できるコーナーもある。

ところで、風力発電に関する昨年の大きなニュースと言えば・・・
三菱商事が、洋上風力発電の大型プロジェクトからの撤退を表明したことである。
2021年に、日本で初めての一般海域での洋上風力公募が行われ、三菱商事(※重工ではない)のグループが、3海域すべてを破格の安値で総取りした。しかし、2025年8月に建設コスト上昇などを理由に撤退表明し、政府を含む関係者に衝撃が走った。
経産大臣が「大変遺憾だ」と半ギレし、秋田県知事も「大変な落胆」と「誠に遺憾」との言葉で憤りを表明。三菱商事の信頼を失墜させた。
(なお、調べてみると、すでに2014年には、三菱重工は自前での洋上風力発電設備の製造からは撤退しており、日立や東芝も撤退しているので、日本は自前で風車の製造はやってない状況である。)
グループ企業に関わるそんなニュースが記憶に新しいタイミングで見ると、なんとも皮肉の効いた展示ともいえる。
まとめ——三菱重工の軌跡とは
・・・というわけで、三菱が色々やらかしてきた軌跡力強く進めてきた巨大プロジェクトの一端がよく分かるミュージアムだった。
三菱は、1兆円かけたジェット機開発が頓挫し、ロケット打ち上げが失敗して数百億の衛星が空に消え、洋上風力発電の大型案件を投げ出して再エネ政策を窮地に追いやっても、微動だにせず立っていられる巨大企業グループなのである。
しかし、それはつまり、このような国策企業が存在しなければ、莫大な資金を要するリスクの高い事業を前に進めることはできないということでもあるのだ。
国家が戦略を描くにあたって、その実行を担う力がある企業は必ず必要なのだ。
ウィキペディア等の情報によれば、三菱には企業精神として「三菱は国家なり」という言葉があるらしい。
誰が言ったのか定かではないけれど、なるほどこのミュージアムを見学すれば、三菱の存在が常に、国家の命運をかけたプロジェクトとともにあったことが分かる。
いいか悪いかは別として、三菱重工が日本という国家と歩みをともにし、国家プロジェクトの担い手として君臨していることはまぎれもない事実である。
子どもが見れば、海や宇宙といった未知の世界への憧れと科学技術への興味を喚起させる楽しい体験をすることができる。
一方、目を輝かせる子どもの姿を眺めながら、浮世の垢にまみれた大人は、
「これが国策企業というものか・・・」
なんて感想を抱いて、ちょっと遠い目になることができるぞ!
まだ行ったことがない人はぜひ訪問することをオススメしたい。


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